mixiの、食の安全や美容・健康を扱うコミュニティを見ていて、改めて「天然信仰」の根強さに驚かされる次第である。先日取り上げた安部司の著書も、天然物信仰に一役買っているわけだが(しつこいようだが、安部は自然海塩の会社に在籍している)。
「食の安全とフードファディズム」か、「似非科学」か、迷うところではある。「自然・天然=安全」「合成・人工=危険」という、結論ありきの安易な二分法は似非科学のやり方そのもの。何度も言っているけど、トリカブトだってフグだって天然だし、ジャガイモの芽(ソラニン)とか生の豆(レクチン)とかアク抜きする前のワラビ(プタキロサイド)とか、ごくありふれた食材にだって有毒物質は含まれている。
かつては「食品添加物」としての規制の枠外だった、主に天然由来の成分が、現在では「既存添加物」名簿に収録されている(意外なところでは、金箔入りの酒に使う金とか、窒素充填の窒素なども)。合成品の「指定添加物」が、厳密な安全性評価がなされているのに対し、「既存添加物」は、長年用いられてきた経験上、特に問題は起こっていないというのであって、科学的・定量的な安全性評価は途上にある。その中でアカネ色素は発がん性が疑われるとして使用禁止になったわけだ。
ところで、mixiの「懐疑論者の集い-反擬似科学同盟-」というコミュニティで、と学会の原田実氏(mixiでは「偽史学博士」)が、このようなことを書かれていた。
「私が子供の頃(60年代)の未来予測の本では、『21世紀には体に悪い天然食料を食べる必要はなくなり、栄養素を錠剤やチューブで必要なだけ摂取するようになる』と大真面目に書かれていましたっけ。学習雑誌の特集とか、大人向けでも真鍋博先生の挿絵が用いられているような本とか・・・・
実際の21世紀がこれほど天然志向の社会になるとは当時の科学ライターやSF作家には予測できなかった(もしくはその予想があっても一般向けの本には書けなかった)わけですね」
60年代は、「人工」「合成」信仰だったわけだ……。さて、どうして“宗教改革”が起きたのか。レイチェル・カーソンの「沈黙の春」が出版されたり、公害が社会問題になったのが60年代から70年代にかけてだが、ニューエイジ・ムーブメントが盛んになったのもこの頃。ニューエイジと天然信仰、イコールではないにしても、こちらが論理を尽くして添加物・農薬、厳しい基準に則って使われているのだから心配ご無用、と説明していても、ニューエイジにカブれたのだろうか、「(合成物は)“自然の摂理”に反する」とやらで聞く耳を持たないのがいる。“自然の摂理”、随分便利な逃げ口上だねぇ。何せ検証不可能。人間、思考停止に陥ってはいけない。
公害、合成洗剤による水質汚濁や富栄養化、「沈黙の春」で指摘されたDDT等、確かにその当時はいろいろ問題が起きたわけだが、どうもその当時のステレオタイプなイメージを未だに引きずって、現在使われているものをきちんと知ろうとしないまま、闇雲に「人工・合成=危険」と思い込んでいるのも多いように思う。
松永和紀さんが著書「メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学」で、新聞記者時代の経験を書いている。松永さんも、一頃有機農業を魅力的に感じて、有機農家をすすんで取材したのだという。ところが取材を重ねるうちに、何かおかしいと感じるようになったと。有機農家の中で、本当にごく一部ではあるが、農薬の危険性を主張して、慣行農業をしている農家を陥れるようなことを言うのがいると。彼らは農薬を使わなくなって久しいので、最新の農薬知識を持たない。彼らの言う危険な農薬とは、数十年前の農薬の姿なのだという。
また、同じ松永さんの「踊る『食の安全』―農薬から見える日本の食卓」では、テレビのニュース番組でコメンテーターとして出演依頼を受けた専門家の話が出てくる。番組の前の打ち合わせで、テレビ局が用意した「資料映像」を見て愕然としたという。今時どこでも使っていない機械に、今時使っていない白い粉。どう見ても20年前の映像。これでは視聴者にウソを伝えることになる、とその方が言うと、テレビ局の担当者はキョトンとしていたと。
ところで、現代の食生活に対するアンチテーゼとしてか、「粗食」だか「スローフード」だかがブームになる。日本古来の伝統食に回帰せよとか何とか。昔の貧しい農村の生活実態を知らないから、そんなことが言えるわけだ。人生五十年、乳児死亡率の高かった時代に戻りたいか。
確かに、全国各地に素晴らしい、伝統の郷土料理がある。しかし、昔は「ハレ」と「ケ」には厳然たる区別があった。正月や秋祭りや結婚といった、年に数回の「ハレ」の日以外は塩辛い漬物のような「ばっかり食」の習慣があり、塩分の摂り過ぎや栄養の偏りが短寿命に繋がっていた、というのが実態だろう。地道な生活指導の結果、日本は世界一の長寿国になれたわけだ。
悪趣味だが、フードファディズムを煽っている人士が、生活習慣病で死なないかと、ひそかに思っている(ブログに書けば「ひそかに」とは言えないか)。安部司とか、牛乳有害説を唱えている「病気にならない生き方」の新谷弘実とか、「買ってはいけない」の船瀬俊介や山中登志子、粗食とかマクロビオティックとか。大物を忘れるところだった、オカルト商法の総合商社・船井幸雄。一方、何々がいいと「あるある」や「おもいッきりテレビ」で持ち上げた「教授」、例えばラクッコピコリン教授。
フードファディズムの提唱者である高橋久仁子さん(群馬大学教授)は、講演でいつも3人の例を出すのだという。
「実は、私が講演などで必ず例を出す3人の研究者がいます。お茶を丸ごと食べることを奨めたKさん、アガリクスの広告塔だったMさん、大豆を食べれば万病解決と説いたOさんです。Kさんは44歳、Mさんは69歳、Oさんは65歳で、いずれもがんで亡くなられました。『これを食べれば万全』と一般の人たちがあまりにも信じているので、悪趣味ですがあえてこの3例を出すんです」
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